仁川でのナンパ

2012-01-14

翌朝、目覚めると、H君は自分の干の甲を眺めながら、しきりと首を捻っていた。昨夜、彼は少し買い物をしてくるといって部屋を出ていった。僕は大阪からの夜行バスの疲れがどっと出たのか、いつの間にか寝入ってしまったのだった。彼は手を見つめながら、昨夜のできごとを思い出して、ぽつり、ぽつり、と話しはじめる。「いや、ウェスタンラリアートをかけられましてね」「ウェスタンラリアート?」それがプロレスなどで使われる技の名称であることがわかるのに少し時間かかかった。

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なんでも彼は、昨夜、近くにあったファミリーマートで買い物をしたのだという。店を出るとそこに可愛い韓国女性がいて、つい声をかけてしまった。まあ、ナンパである。僕のように五十歳を超えると、さすがにそんな気概もなくなってくるのだが、彼は未婚の三十歳である。酔いも手伝って韓国女性に声をかけることぐらいあっても不思議ではない。しかし運が悪いことに、その女性の後ろには仁川のヤンキーが何人もいたらしい。彼らに思いっきり、ウェスクンラリアートをかけられたというのである。どうもそれは本格的な喧嘩などではないようで、その証拠に、ヤンキーは彼の手の甲にひとつの電話番号を書き残していったのである。しかしH君は、ヤンキーたちがなぜ、その電話番号を書いたのかがどうしても思い出せないようだった。「なにか気持ち悪いじゃないですか」「そんなこと、俺にいうなよ。僕はことっと寝入っちゃったんだから」「そうなんですけど……」